「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第93話
帝国との会見編
<帝国のパーティーって>
バハルス帝国の東に位置する衛星都市イーノックカウ。
その都市にある最高級宿のラウンジではアルフィンが懐かしい顔と対面していた。
「アルフィン様、お久しぶりでございます」
「カロッサさん、お久しぶりです。お元気でしたか?」
予めリュハネンさんから今日カロッサさんがこの町に到着すると言う話を聞いて、私はその到着をラウンジでお茶を飲みながら待っていた。
「はい、元気にやっております。アルフィン様、この度はエスコート役という栄誉をいただき、大変嬉しく思っております。しかし私のような者で良かったのでしょうか? アルフィン様であれば立候補される方も多いでしょうに」
「いえ、私はこの国ではまだあまり人とかかわっておりません。ですからカロッサさんに断られてしまったら途方に暮れてしまう所でしたの。受けていただけて、本当に嬉しく思っていますわ」
私はカロッサさんのお世辞に、つい苦笑を浮かべて愚痴っぽく話してしまった。
実際にカロッサさんに断られていたら本当に困っていたであろう事は容易に想像が付くもの。
「そうでしたか。こう言ってはなんですが、まだアルフィン様のお名前が知れ渡っていなかった事に感謝しなくては。このパーティーでお披露目されてしまえば、もう二度とこの様な栄誉に預かれる事はないでしょうからな」
「いえ、そんな」
私が都市国家イングウェンザーでの立場がただの一貴族というのならともかく、支配者と名乗っている以上、貴族と言う立場の人であったとしてもそう簡単に近づく事はできないと思う。
ロクシーさんがこちらの情報を色々とそろえていた所を見ると私たちの危険性をある程度認識しているのだろうから、すでにある程度の結びつきを持つカロッサさんはともかく、どこかの、特に大きな力を持った大貴族が新たに私たちと結びつくのを良しとはしないだろうからね。
そして何より私があまり他の貴族と仲良くしようと思っていないというのも理由の一つだったりする。
派閥を作ると言うのはそれすなわち力を持つということ。
もし都市国家とは言えシャイナのような強力な力を持つ者が何人か所属しているであろう軍を率いているうちが、自国の有力貴族と手を組めばバハルス帝国皇帝としても無視できない勢力になるだろうし、そんな事になれば面倒ごとに巻き込まれる未来が来るであろう事を簡単に想像できるのだから当たり前よね。
私としてはなるべく波風はたてず、ゆったりとした気分で日々を過ごしたいだけなのだから面倒ごとなんて御免蒙りたい。
目指せ、ぐうたらスローライフ! まぁ、メルヴァが許してくれないだろうけどね。
「私としてはあまり目立ちたくはないのですが、ロクシー様がお誘いくださったので参加させていただく事になっただけなのです。ですから、私自身あまり他の貴族の方と仲良くなるつもりはないですよ。それに例えどれだけ大きな力を持つ貴族であっても、イングウェンザー城から遠く離れている領地を持っているのでしたら交流するのも大変ですからね」
「ははは、それなら一安心です。私としてはアルフィン様とこれからも懇意にしていただきたいですし、今の立場を他の方に取って代わられるのは避けたいですから」
私の言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろし、声を上げて笑うカロッサさん。
私としても気を使わなくてもいい貴族がいて助かってます。
「ところでカロッサさん、私はこの国のパーティーに参加した事がありません。ですから参加をする前の予習として、大体の流れを説明していただけるとありがたいのですが」
「パーティーの流れですか?」
私でもリアルでは企業のパーティーや有力者のパーティーになら参加したこともある。
でもここは異世界だ。
私の考えるパーティーと貴族のパーティーが同じとは限らないし、実際同じ物ではないだろう。
だって企業のパーティーではどれだけ社会的地位が高い人であってもその令嬢を同行させるなんて事は無かったし、参加条件に男性ならエスコートする女性を、女性ならエスコートされる相手を用意する必要なんて無かったのだから。
参加する人の条件が違うのだから、かなり勝手の違うものなのだと考えておくべきと私は思うのよね。
「そうですね。多分他国と同じでしょうけど一応流れを説明しておきます。まず低位の貴族、具体的に言えば騎士爵や準男爵など、自分の子に爵位を告がせることができない一代貴族や、潰されまではしていないですがすでに没落した名ばかりの貴族が会場に入ります。続いて爵位の下の者から儀典官に名前を読み上げられ、それにしたがって入場していく事になります。予め申し上げておきますが、この時私は子爵ですからかなり初めのほうに名前が呼ばれるのですが、今回は国賓であるアルフィン様をエスコートする役目がありますから、名前が呼ばれても入場する事はありません。あくまで私がこの場に来ているという事だけを他の貴族に紹介しているものと考えていただければ結構です」
「なるほど」
ああ私と一緒に入場はするけど、その時は国賓である私とシャイナの名前しか呼ばれないから、この時カロッサさんの名前を呼んでおいてもらわないと来ていないと思われてしまうわけか。
今回はロクシーさん主催だろうから、それは流石に不味いものね。
「因みに、基本名前が呼ばれる順番は爵位の順ですが、例外的に手柄を立てたり皇帝陛下の覚えがよい者は本来の爵位より後に呼ばれる場合があります。この場合、私のように子爵位であったとしても伯爵の方々に混じって名前が呼ばれる事もあるということです。また、同じ爵位であってもこれは適用され、帝国において重用されている者ほど後に呼ばれます」
「なるほど、後に呼ばれるほど名誉な事なのですね」
まぁこれは私がリアルで参加していたパーティーでも挨拶の順番は大きい企業の人の方が後だったから、別に驚く事でもないかな。
「一通り全ての貴族の名前が呼ばれた後、国賓の名が呼ばれます。これはバハルス帝国が重きに置いている国ほど後になるので、帝都で行われるパーティーでは大体リ・エスティーゼ王国が最初でスレイン法国が最後に呼ばれます」
「ちょっと待って、リ・エスティーゼ王国とは戦争をしているのでしょ? そんな国の人もパーティーに呼ぶなんて事があるのですか?」
「はい。国賓を呼ぶパーティーは何かのお披露目をする場である事が多いのです。ですから国の力を示す為、例え敵国であっても招待状を出しますし、相手側もそのお披露目がどのような内容か確かめる為に出席します」
なるほど、そういう理由ならたとえ敵国の者でも招待すると言うのは解らないでもないわね。
「このようなパーティーですが、もしアルフィン姫様が参加なされる時は残念ながらこのスレイン法国よりも先に呼ばれる事となるでしょう。ああ、嘆かわしい。アルフィン様が女神さ・・・」
「カロッサさん!」
カロッサさんが不穏な事を口走りそうになったので慌てて口を挟む。
もう、ここは密室ではなく最高級とは言え宿のラウンジなんですよ。
一応不可視の密偵を護衛として配置はしているけど、誰が聞いているか解らない所で女神様扱いされては余計な厄介ごとに巻き込まれかねないからやめて欲しいわ。
「カロッサさん、ここではなんですから、私の部屋へ移動しましょう」
「アルフィン様の宿泊なさっている部屋へですか!? そんな恐れ多い!」
いいえ、ここでこれ以上話すとまた何か失言して平伏しかねないでしょう、あなたは。
密談していると監視しているであろう人に思われないよう、ラウンジで話をしたのが間違いだったかも。
如何に私が他国の女王と言う立場であるという事になっているとは言え、バハルス帝国の貴族が公衆の面前でそんな事をしたら大問題になってしまうもの。
まったく! こんな事なら変に気を回さず、さっさと部屋に引っ込んでおくべきだったわ。
部屋に移動し、応接セットに腰を落ち着かせる。
そしてヨウコにお茶の用意をさせてから説明を再開してもらった。
「では先程の続きから。アルフィン様が女神様だとお知りになれば皇帝陛下といえど・・・」
「カ・ロッ・サ・さん」
声を低くし、ゆっくりと怒っていることが解るようにカロッサさんの名を呼ぶ。
「申し訳ございません。これは秘密でしたな」
「いえ、何度も言うように私は女神ではありません。その事はお忘れなく」
もう、何度釘を刺しても改めないんだから。
なぜそこまで根強く私の事を女神様だと思い込んでいるのかしら? 困ったものだ。
「ではそういう事にしておくとして、説明を続けさせていただきます。今回は帝都では無くイーノックカウで行われるパーティーですから国賓と呼べる方はアルフィン様とシャイナ様だけだと思われます。ですからアルフィン様が入場されるのを最後に扉が閉められ、入場階段を降りきって挨拶をされた所で開催の宣言がなされて、楽団が演奏を始めることによってパーティーが始まります」
「待って、私が最後なの? ロクシー様では無く?」
「ああ、説明が抜けておりました。ロクシー様は主催者ですから一番最初に入場されて、席についておられます。先程の挨拶と言うのも会場にいる貴族たちではなく、主催者であるロクシー様に対して行うものですから、お間違え無き様お願いします。これは余談ですが、主催者が皇帝陛下のパーティーの場合のみ、例外的に主催者である皇帝陛下が最後に入場されます」
そうよね、一番偉い人が最後に入場するのだからいくら主催とは言え皇帝陛下が誰かよりも先に入場するのは可笑しいもの。
「一番位が高い皇帝陛下ですもの、最後に入場するのも当たり前ですわね。まぁ今回は皇帝陛下が参加なされるようなものではないのですから、私が入場してパーティーが始まるのでしょう。その後の流れを教えていただけるかしら?」
「はい、アルフィン様。今回はアルフィン様は国賓であり主賓でもあるのでロクシー様の隣に席が儲けてあると思います。そこでしばらく歓談なされた後、アルフィン様と私のダンスが行われて、以降ホールではダンスが、周りでは食事や飲酒、貴族同志の交流が行われます」
「まぁ、最初に私たちがダンスを踊るのですか?」
「はい。本来は主催と主賓の二組が最初にダンスをお披露目する事によりその日のダンスが解禁されるのですが、今回は主催がロクシー様でその本来のお相手である皇帝陛下が不参加のパーティーですから、主賓一組だけのダンスになると思います」
うわぁ、周りの注目を集めながら一組だけ踊るのか、それは緊張するなぁ。
ステップを間違えてカロッサさんの足を踏んだりしたら大恥をかくだろうし、しっかり練習して本番に備えねば。
「アルフィン様、この様な状況ですからお好きな曲を選ぶ事ができます。どうでしょう、予め楽譜さえ渡しておけばアルフィン様の国の音楽でも問題はありませんから、ご自分が踊りなれた曲で踊られては?」
「へぇ、そんな事が許されるのですか」
ならよく知っている曲がいいよね、知らない曲ならカウントとか取りづらいだろうし、曲調が急に変わって慌てる事も無いだろうから。
そうだなあ、それならばダンスといえば誰もが思い出す曲、美しく○きドナウがよさそうだ。
いつも練習してる曲だし、オーケストラで演奏するととても映える曲でもあるから貴族のパーティーにはぴったりだしね。
「解りました。それならば私がいつも練習に使っている曲がいいでしょう。優雅な曲ですから、きっとロクシー様にも気に入っていただける事でしょうし」
「ほう、アルフィン様がそこまで仰られる曲ですか。それは私も楽しみです。いや、私もアルフィン様のパートナーとして踊るのでしたな。アルフィン様、出来ましたら、私にも予めその曲を聞かせてはいただけないでしょうか?」
予めに聞かせる? そう言われても楽器も持ってきてないし、そもそも誰か弾けたっけ?
私がそんな事を考えていたのが伝わったのだろう、後ろに控えていたヨウコが言葉を掛けてくれた。
「アルフィン様、それでしたらサチコがバイオリンを弾く事ができます。美しく青○ドナウでしたら少し練習時間をいただければ、皆様にお聞かせできるレベルまでいけると思います」
「そう? どれくらい猶予があればいいかしら?」
「はい。有名な曲ですし、サチコも一度くらいは弾いた事があることでしょう。ですから、一晩あればお聞かせできるレベルになるかと思います」
「そう。カロッサさん、明日ならお聞かせできそうですけど、ご予定は?」
「はい、午前中は挨拶まわりがありますが、午後なら窺う事ができると思います」
「解りました。では明日の午後、この宿のラウンジでサチコに弾かせる事にしましょう」
なぁ〜んて勝手に決めちゃったけど、ほんとに大丈夫よね?
まぁ、ヨウコが出来ると言ったのだから本当に出来るとは思うし、ギャリソンも微笑みながら頷いているからきっと大丈夫よね?
「ところで、ダンスをした後はどのような事があると考えられますか?」
「そうですね、アルフィン様は周りとの面識がございませんからロクシー様が有力な貴族に紹介をなされるかもしれません。ですがこのイーノックカウは前線からも帝都からも遠く、それ程力を持った貴族がおりません。ですからその辺りはなんとも」
「ああそう言えばロクシー様は私の国のお菓子に興味がおありのようで、今回のパーティーにはお持ちする約束になっていますの。その時に令嬢たちに紹介すると仰られていたから、貴族よりも先に、その令嬢たちを紹介なされるのかもしれないわ」
「なるほど、そのようなお約束をなされているのでしたら、貴族ではなくロクシー様と共にこの都市に避難してきている皇帝陛下の愛妾の方々を紹介なさるのかもしれませんね」
ああなるほど、そう言えばロクシーさんがこの都市にいるのって避難の為だっけ。
あまり有力な貴族がいないというのならロクシーさんがその令嬢たちとわざわざ私を引き合わせる事も無いだろう。
と言う事はあの時話していたご令嬢たちというのはパーティーに参加する貴族の令嬢ではなく皇帝のお妾さんたちの事だったのか。
うわぁ、一気に気が重くなったよ、これ以上帝国中枢にかかわる人とは知り合いになりたくないんだけどなぁ。
ご令嬢たちへの紹介と言われて軽く考えてたから、対策なんてまるで考えてない。
でもこれがお妾さんたちならちょっと話は変わってくるのよねぇ。
だって皇帝と直接話が出来る人たちだから、悪い印象をもたれてしまったらそのまま皇帝に伝わるだろうし、それが元で揉め事が起こっても困るからなぁ。
「愛妾さんたちが相手なら少し気合を入れないといけないかもしれないわね」
「ですがアルフィン様、あまり気合を入れすぎますとアルフィン様も陛下の愛妾の座を狙っていると思われて警戒されるのでは? 私からすれば女神であるアルフィン様が陛下の愛妾になるなど考えられない事ではありますが、彼女たちは常に陛下の寵愛を得る事を第一に考えている者たちです。そこにアルフィン様が加われば自分たちの立場を危うくなると考える者も出てくるのではないでしょうか?」
なるほど、そういう考え方もあるのか。
私自身は皇帝のお妾さんになる気などまるでない。
何より女王なんだから、自分の国を放っぽり出して皇帝の下へ行くなんて立場上できるわけないんだよねぇ。
「でも相手にはそれは通じないかも知れないし、愛妾たちと会う時は国の中枢をになっている私の立場をしっかりと伝えないといけないかもしれないわね」
あまりの事にカロッサ子爵がまた自分のことを女神様扱いした事にさえ気付かず、独りごちてひたすら考えに没頭するアルフィンだった。
あとがきのような、言い訳のようなもの
あ〜、一応曲の名前は○を入れてぼやかしておきました。
まぁ、2度出てきてその二つとも○の位置が違うからあまり意味はないでしょうが。
さて、オーバーロードでは語られていない話ですが、愛妾同士の関係ってどうなんでしょうね?
貴族間では自分の地位に関して優越感や嫉妬心があると言う描写がweb版で書かれているけど、たとえジルクニフの子供を生んだとしてもロクシーが育てる事になってそうだからなぁ。
それでもやっぱり愛妾間での地位は上がるのだろうか?
まぁ、上がったとしても筆頭はロクシーのままなんだろうけど。
美しいだけの愛妾たちにはジルクニフ、あまり興味がないみたいだし。
あと、掲示板でお約束した迷子の賢者の次話ですが、もうすぐ書きあがるので今夜の内にアップできると思います。